マット・マクグラス BBC環境担当編集委員
環境問題に取り組む国連総会の補助機関、国連環境計画(UNEP)は27日、2018年度版の「排出ギャップ報告書」を発表した。UNEPは報告書で、世界の二酸化炭素(CO2)総排出量が4年ぶりに増加したと説明。気候変動に対する国際的な取り組みが、目標とする水準に達していないと指摘した。
報告書は、2017年の排出量増加について、経済成長が要因と説明。一方で、各国による炭素排出量の削減努力は行き詰まっているとの見方を示した。
2015年に採択された、気候変動に関する「パリ協定」が定めた目標を達成するには、世界のCO2排出量を2020年までに減少へと転じさせるのが重要となると、報告書は書いている。
しかし専門家は、2030年までに減少傾向に変えることさえ、現時点では難しいと指摘する。
12月2日には、ポーランドで国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)が開催される。COP24は国連気候変動枠組条約の締約国が、取り組みについて話し合う国連の主要会議で、14日まで続く。
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排出ギャップとは
UNEPは2010年から毎年1回、排出ギャップ報告書を発表している。報告書は、温室効果ガス排出量の現状と未来について、最新の科学的研究を基に評価するもの。
世界の気温上昇を、安全な限度内に維持するのに必要な温室効果ガス排出量の水準と、各国の合意した約束や対策を下敷きにした水準との間にある大きな開きを、報告書は強調している。
今年の報告書では、現状と必要な状態との差がこれまでで最大になったことが示された。
排出量が再び増加した理由
2014年から2016年までの工業や発電による世界のCO2総排出量は、世界的な経済成長が穏やかだったこともあり、ほとんど横ばいだった。しかし2017年、国内総生産(GDP)の増加と共に、CO2排出量は1.2%増加した。
1.2%という増加量はわずかなものに思えるかもしれないが、これは世界的な気温上昇を摂氏1.5度未満に抑える取り組みの文脈で捉える必要がある。
10月に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書は、世界の平均気温上昇を産業革命以前比1.5度未満に抑制しなければ、自然災害や環境面のリスクが深刻になると指摘。世界規模の抜本的な対策をとらなければ、早ければ2030年にも1.5度上昇してしまうと警告した。
国連によると、この気温上昇1.5度未満という目標を達成するには、2030年の世界の温室効果ガス排出量を、現在よりも55%削減しなければならない。
報告書筆者の1人、独ポツダム気候影響研究所のグナー・ルデラー博士は、「言葉と行動の間には、今もとてつもないギャップがある。気候安定のため各国政府が合意した目標と、目標達成のための対策には、いまだにとてつもなく大きな隔たりがある」と話した。
この差を埋めるにあたり、気温上昇1.5度未満の目標を達成するには、各国が現在掲げている温室効果ガス削減量を5倍にしなくてはならないというのが、専門家たちの意見だ。
UNEP報告によると、世界は現在、今世紀末までに気温が摂氏3.2度上昇する方向に向かっているという。
温室効果ガス排出量はまだ最大ではない?
世界の温室効果排出量がいつ最大になるのか。UNEP報告書はその時期に注目している。
報告書は、2020年には温室効果ガス排出を減少に転じさせるのが、「パリ合意で設定された気温上昇の抑制目標を達成するのに極めて重要だ」と指摘する。しかし、現在の取り組み規模は不十分だという。
2030年までに、世界の温室効果ガス排出量の約60%を占める57カ国で、排出量がピークに達すると報告書は見通しを示す。しかしこれは世界が必要とするレベルに程遠い。
報告書は進捗の悪い国を名指しで指摘しているのか?
ある意味で、はい。報告書は、アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、欧州連合(EU,英国を含む)、韓国、サウジアラビア、南アフリカ、そして米国が、2030年に向けて割り当てられた国別分担に届きそうにないと書いている。
ブラジル、中国、日本の3カ国は、現在のところ目標どおりに対策を進めている。インド、ロシア、トルコは、目標を上回る成果を挙げそうだ。
成果を挙げている国の中には、そもそも国別計画の目標値が低めだったところもあり、だからこそ成功している可能性もあると書かれている。
前向きな内容は?
もちろん、あります。
国連は「非国家主体」に大きな期待を寄せている。地元自治体や年、地域政府、企業、高等教育機関などが、今ある目標との差のこれからに、大きな影響を与える可能性があるという。
現在、133カ国の7000都市以上と企業6000社以上が、少なくとも36兆ドル(約4100兆円)の収益を投じて、気候変動への対策を約束していると、国連は推計している。
しかし筆者たちは、これは始まりに過ぎないと考えている。対策を実施できる公開取引を行う世界50万社以上の企業や、もっと多くの主体がいれば、それらが累積し、重大な影響を現状の隔たりにもたらせるという。
非政府主体により、2030年までに年間19ギガトン相当のCO2排出量を削減できる可能性があると報告書は指摘する。この排出量削減は、世界の気温上昇を2度にとどめるのに十分な量だ。
未来は財政次第?
報告書は、各国政府の課税計画、排出量削減に大きな重要性を持つ可能性があると示唆している。
炭素税、もしくは炭素排出量取引制度が、世界全体の炭素排出のわずか15%にしか適用されていないと報告書は指摘する。
中国が自国の計画経済市場にこれらの制度を導入すれば、比率は20%まで上がる可能性がある。ただ報告書は、化石燃料由来の温室効果ガス排出の半分に税金がかけられておらず、気温上昇を摂氏2度に抑える水準の課税があるのは10%に過ぎないとも述べた。
「政府が炭素排出量の少ない代替燃料に助成を出したり、化石燃料に課税したりといった対策を金融政策に含めれば、エネルギー業界への正当な投資を促せるとともに、炭素排出量も大きく削減できる」と、UNEPの主任科学者ジャン・リウ氏は話した。
「化石燃料に対する全助成金が段階的に廃止されれば、2030年までに世界の炭素排出量は最大で10%削減できる可能性がある。炭素に対する正当な値付けも同じく重要だ。CO2の1トン削減につき70ドルが支払われれば、いくつかの国では最大40%のCO2排出量削減が可能となる」
取り組みの現状は?
この報告書は、来週からポーランド・カトヴィツェで開かれるCOP24の各国代表への情報提供を狙いとしている。会議で各国代表は、パリ合意で設定された内容を、どうすれば実現できるか、規則の最終化を目指して交渉する。しかし執筆者は、各国により高い水準の目標を持つ後押しに報告書がなれるよう望んでいる。
ルデラー博士は、「2050年までに温室効果ガスの排出を完全にゼロにする、そして2030年に向けた排出量削減目標を明白に強化すると約束することで、ドイツと欧州は指導力を示せるだろう」と話した。
(英語記事 Climate change: CO2 emissions rising for first time in four years)
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